HARLEY-DAVIDSON FXDF 2009 / P/N 57338-08  |  PART 2 — 作業編

作業編

診断結果、全体の流れ、各工程の実務。判断基準と中止ラインも含みます。

この章の内容

2-0. 対象の状態と方針

洗浄後の実物を確認した結果です。以下はこの個体に対する結論。

診断1:曇りの正体 → 微細傷。研磨で直る

洗っている最中はクリアに見えていた、という点が決め手です。素材内部の白濁ではなく、表面の無数の微細傷が光を散らしている状態。黄変もほとんど見られず、ポリカ自体はまだ生きています。

診断2:ハードコートは機能していない

曇り方が均一な渦・弧を描いており、前オーナーが乾拭きか粗いもので繰り返し擦った跡。表面全体に及んでいるため部分磨きという選択肢はありません。

診断3:傷は両面にある

したがって全面研磨を表と裏で2回。ただし帯は作業対象外にするため、実作業は11〜14時間程度。

診断4:マウント穴の周囲にクラックあり

白い星形・クモの巣状の跡は応力クラックと確定。研磨では消えません。ただし位置がすべて金属プレートで隠れる帯の中で、そもそも磨く必要がない領域です。作業は継続します。

クラック管理の5点

  1. マスキングは帯全体に。穴の周囲2cmではなく、プレートが被る範囲をまるごと。実際にプレートを当てて鉛筆でなぞってからテープを貼る
  2. 石油系溶剤をクラックに触れさせない。最重要。シールドは傾けて置き、液が帯へ流れない向きで作業。工程ごとに帯を水で流す
  3. 先端に印を付ける。細字の油性ペンで各亀裂の先端に短い横線。作業後に線を越えていれば「伸びた」と一目で分かる。装着後も数か月おきに確認
  4. しならせない。片手で持つ、端を持って運ぶ、はNG。毛布の上に全面を接地させたまま作業し、移動は両手で面を支える。研磨よりこの取り回しの方が亀裂を伸ばします
  5. ストップドリルは伸びてから。亀裂の先端に2〜3mmの穴を開けて応力集中を鈍らせる手法。プレートで隠れるので見た目の問題はないが、先端の位置を外すと逆効果。いま進行していないなら監視の方が安全です

2-1. 全体の流れ

工程内容時間節
1養生・洗浄。プレートが被る帯をまるごとマスキング30分2-2
2裏面・帯より下で試し研ぎ。歪みチェックで機械研ぎの可否を判定1時間2-3
3裏面を全面研磨(K-800→K-3000)3〜4時間2-4〜2-5
4裏面をコンパウンド仕上げ(3000→7500→9800)1.5時間2-7
5表面を同様に(帯より下 → 全面 → コンパウンド)4.5〜5.5時間2-4〜2-7
6脱脂・完全乾燥1時間2-8
7コーティング1時間+乾燥2-9
8組み付け1時間2-10

合計11〜14時間。コンパウンドが3段になったぶん、旧計画より片面20〜30分増えています。

作業順は「下から上」。ブラケットの帯より下は、車体に装着するとヘッドライトとナセルの陰に入って視線に入りません。ここを練習ゾーンにして、番手の効き方・力加減・水の量を掴んでから視界部分に進みます。順番は裏の帯より下 → 裏の全面 → 表の帯より下 → 表の全面。

1日で終わらせようとしない。2日に分けるのが現実的です。ただし研磨途中で剥き身のまま何日も放置しないこと。研磨が終わったら、なるべく早くコーティングまで通してください。

2-2. 準備と養生

1

分解と洗浄

シールドをブレースから外す。中性洗剤と柔らかいスポンジで洗い、砂粒を完全に落とす。砂が一粒残っているとそれが新しい傷になります。

2

帯の範囲をなぞってマスキング

金属プレートを実際に当てて、被る範囲を鉛筆でなぞる。その帯をまるごとマスキング。和紙テープを使い、塩ビテープは使わないこと。

3

クラックの先端に印

裏から光を当てて先端を特定し、細字の油性ペンで短い横線を引く。写真も撮っておいてください。後から比較できます。

4

道具の準備

バフの裏に油性ペンで「3」「7」「9」を記入。スポンジブロックを中性洗剤で揉み洗い。霧吹き2本に水と洗剤水を用意。バッテリーを両方フル充電。

5

台のセット

毛布を2〜3枚重ねて全面を受ける。水平ではなく、液が帯の方へ流れない向きにやや傾けて置く。ドリルはクラッチをドリルマーク側に回しておく。

2-3. 試し研ぎと歪みチェック

裏面の帯より下、15cm四方の一区画をK-800で研ぎます。ここが全体の分かれ目です。

判定1:歪み

一区画やり終えたら、蛍光灯や窓枠のような直線をシールドに映して、映り込んだ線がまっすぐかを見てください。

判定できるうちに気付けるのが、見えない領域から始める意味です。

判定2:削り跡

水を流して光にかざします。

判定3:コンパウンドの相性

同じ帯の下で、コンパウンド3000を塗って拭き取り、乾いてから白濁やクモリが出ないか確認。石油系溶剤入りなので、この確認を視界部の前に済ませておきます。

2-4. 電動ドリルの運用

工程ギアトリガー実回転
水研ぎ K-800〜K-30002速半分〜7割600〜900rpm
コンパウンド 3000→7500→98002速7割〜全開1,000〜1,300rpm
削りすぎが怖い場面1速全開400rpm
エッジ・マウント穴の周囲手作業のみ。機械を入れない

実作業の8か条

バッテリー切れは休憩です。1本15〜20分。切れたら交換のついでに裏面の温度を手で確認してください。ちょうどいい間隔になります。ニカドは使い切ってから充電する方が長持ちします。

2-5. 研磨の手順

1

K-800で全面を均一に

水をたっぷりかけながら研ぐ。全面が均一に真っ白の擦りガラス状になるまで。ここが一番勇気が要りますが、透明感が消えるのは正常です。逆に、ムラが残っている方が問題——磨き残しは最後まで残ります。

ライトで透かして、光沢が残っている箇所がないか確認してください。残っていればそこはまだ削れていません。

2

番手を上げる(K-1000 → K-1500 → K-2000)

番手を替えるたびに、シールドとパッドとバケツを水で完全に洗う。粗い粒が一粒残ると傷になります。手も洗ってください。

機械研ぎは回転がランダムなので「方向を90°変える」判定が使えません。代わりに濡らして光にかざし、前の番手の目が完全に消えたかで判断します。斜めから見ると残った目が見えます。

3

K-3000で目消し

この時点で「白い曇りガラス」が「半透明のすりガラス」くらいまで戻ります。ここの仕上がりがコンパウンド工程の楽さを決めるので、妥協せず時間をかけてください。

4

エッジと穴の周囲を手作業で

スポンジブロックにシートを巻いて、#800→#1500→#2000→#3000。機械は入れません。

エッジは軽く面取りを。研磨でエッジが鋭くなると、そこが欠けの起点になります。角を落とす程度で十分です。穴の縁にバリが出ていたら、それも落としてください。

5

裏面が終わったら表面へ

同じ手順を表面で繰り返します。裏面で掴んだ感覚があるので、こちらの方が速く進むはずです。

2-6. 判定の方法

各工程の完了判定は、この3つを使い分けます。

方法やり方分かること
透かしLEDライトを裏から当てて見る研ぎ残し、削れていない光沢部
濡らして斜め水をかけ、光にかざして浅い角度から見る前の番手の目が残っているか
直線の映り込み蛍光灯や窓枠を映す歪み。これだけは不可逆なので毎回

2-7. コンパウンド仕上げ(3段)

インターフェースパッドは外します。バフ自体が26mm厚あり、曲面追従はバフが担うため。付けたままだと厚くなりすぎて腰が抜け、圧が伝わりません。

3000→ 洗う →7500→ 洗う →9800
1

3000(キズ消し用)— バフ「3」

硬めのバフに3000。2速・7割〜全開。K-3000の研磨目を消す工程で、ここが一番時間を食います。

バフは乾いた状態で回さない——コンパウンドを塗ってから接触させ、切れる前に足す。新品のバフは毛羽が出るので、最初に手で揉んでおくと初回のムラが減ります。

2

洗浄

中性洗剤で洗い流す。バフを替えるだけでは不十分で、面に残った3000の粒が次工程で傷を引きます。

3

7500(極細用)— バフ「7」

中程度の硬さのバフに7500。3000の目を消す工程で、ここで透明感がはっきり出てきます。3000からいきなり9800へ跳ぶと、この段階で消えるはずの細かい目が残り、最後に薄曇りとして見えます。

終わったら再び中性洗剤で洗浄。

4

9800(超鏡面用)— バフ「9」

柔らかいバフに9800。削るのではなく撫でて艶を出す工程なので、圧はさらに抜いて。目詰まりしたらコンパウンドを足すのではなく、一度洗って乾かすか次のバフへ。

5

エッジと穴の周囲

スポンジブロックの黒い側に、トライアルセットの3000→7500→9800を付けて手作業。

2-8. 脱脂と乾燥

アルコールで脱脂しない。ポリカが白化します。中性洗剤で洗ってコンパウンドの油分を落とし、水で完全にすすいでください。

2-9. コーティング

ここを省くと、剥き身のポリカが紫外線でひと夏で黄ばみます。必須工程です。

1

環境を整えてから開封

無風・低湿度・気温15〜25℃・埃の少ない場所。開封したら使い切るので、すべて整えてから開けます。

2

一方向に、薄く

シートで一方向に拭く。往復させず、重ねる幅を一定に。厚く塗ろうとしない——薄く均一が正解です。表面を優先し、裏面は薄めに配分。

3

硬化させる

触らずに置く。埃が落ちない場所で、最低でも数時間、できれば一晩。この間に指で触ると跡が残ります。

4

慣らし

組み付け後も24〜72時間は雨天走行と洗車を避ける。皮膜が完全に落ち着くまでの期間です。

1年後、コートが落ちてきたら。再施工は初回よりずっと楽です。落ちてくるのは薄い皮膜だけで、その下の面は保護されていたのでK-800からやり直す必要はありません。

寿命を延ばす:屋内保管かカバーで目に見えて延びます。半年ごとに純正撥水剤(99841-01)を重ねると犠牲層として働きます。高圧洗浄機を近距離で当てないこと。

2-10. 組み付け

ここを直さないと、せっかく磨いても割れは進みます。

1

テープをブレース側に貼る

当たり面より1〜2mm狭く、厚さ1〜2mm。シールド側には貼りません。

2

ゴムワッシャーを新品に

厚さ2mm以上を確保。潰れて薄いものを再使用しないこと。

3

穴とネジのクリアランスを確認

熱で伸縮したときに逃げ場がないと、そこが新たな応力源になります。きつければ、ペーパーを巻いた棒でわずかに広げる。

4

全部を仮締めしてから、均等に本締め

1か所ずつ締め切ると、シールドが引っ張られて応力が集中します。全点を仮組みし、対角に少しずつ締めていく。

5

トルクを守る

ゴムが軽く潰れる程度で止める。数値は下の警告を参照。

装着後の手入れ

H-Dのインストラクションシートの注意がそのまま有効です。

2-11. トラブル対処

症状原因対処
いつまでも曇りが取れない前の番手の目が残っている/バフを使い回して粗い粒を引きずっている一つ前の番手に戻る。バフを新品に替える。洗浄を徹底
9800まで終えたのに薄曇りが残る3000→7500の繋ぎが不十分7500からやり直す。ここが3段構成にした理由
深い線傷が1本入った粗い粒の噛み込み。砂、脱落した研磨粒子、汚れたクロスその番手まで戻してやり直し。作業台と道具を全部洗う
同心円状のリング跡パッドの傾けすぎ、押しすぎ、同じ場所に留まった角度をゼロに近づけ圧を抜く。一つ前の番手から
面が波打った(直線が歪む)熱、または削りすぎ不可逆。機械研ぎを中止し手研ぎへ。視界部で起きたら交換を検討
白濁が出た溶剤の接触直ちに水で流す。残ったら研磨で落とすしかない
削れが遅いインターフェースパッドが厚く逃げている/目詰まり押さない。パッドを外すか、ディスクを新しくする
コーティングがムラ脱脂不足、指紋、厚塗り、低温硬化後にK-3000で落としてやり直し
クラックが伸びた溶剤、たわみ、締めすぎ作業を止めて原因を特定。ストップドリルを検討

中止ライン。視界部に歪みが出た、夜間の対向車で乱反射する、クラックが視界部に伸びた——このいずれかなら使用せず交換してください。走行中に前を見る部品です。